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福岡地方裁判所小倉支部 昭和32年(ワ)758号 判決

原告 安田誠祐

被告 国

訴訟代理人 船津敏 外三名

主文

本件の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は

(一)  被告は原告に対し、金九十三万五千百三十円およびこれに対する訴状送達の翌日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、

(二)  その請求の原因としてつぎのとおり述べた。

(1)  原告は訴外千代田茂に対し、昭和二十七年七月十六日金三十万円を、弁済期同年八月二十五日、利息月一分毎月二十五日払、利息の支払を一回でも怠つたときは期限の利益を失い、期限後は元金および延滞利息に対し、金百円につき日歩二十五銭の違約損害金を支払う約定で貸付け、同債権担保のため訴外千代田伝七所有の

(イ) 若松市修多羅字山ノ堂一〇一六番地、家屋番号山ノ堂七九番、木造瓦葺平家建住家一棟建坪十坪

(ロ) 同所同番地、家屋番号山ノ堂七七番、木造瓦葺平家建住家一棟建坪二十四坪

(ハ) 同市山ノ堂町七番地の四、宅地二百五十坪三合四勺

(ニ) 外一筆の建物

に抵当権設定の登記をした。

(2)  ところが右債務者は積務を履行しないため、原告は福岡地方裁判所小倉支部に対し、右(イ)(ロ)(ハ)の土地建物につき抵当権実行のため競売の申立をし、同庁昭和三十二年(ケ)第三四号事件として、同年三月四日不動産競売手続の開始決定があり、同年十二月十六日配当手続の結了により同競売事件は完結した。なお右(二)の建物は、他の債権のため別途処理され、本件の競売手続には無関係である。

(3)  原告は競売裁判所に対し、配当金合計九十三万五千百三十円の請求書三通および領収書三通を提出し、同裁判所は該三通の領収書のうち、一通は債務者たる訴外千代田茂へ、一通は福岡地方裁判所小倉支部歳入歳出外現金出納官吏へ各交付し、一通は自ら保存している。

(4)  原告は右現金出納官吏に対し、現金の交付を要求したところ、何ら正当の理由なくその支払をしないので本訴に及んだ。

二、被告指定代理人は、本案前の答弁として、主文と同旨の判決を求め、その理由として訴状によると、原告はその主張の不動産競売事件において、原告が配当を受くべき金九十三万五千百三十円を、競売裁判所が現に保管しながら何ら正当の理由なく交付しないから、その交付を求めると主張するが、競売法による担保権実行のための競売手続は、配当金の交付をまつて終了するものと解すべく、配当金の交付は競売手続内の事実行為として、競売裁判所の実施すべき行為にほかならないのに拘らず、原告は競売手続外において、国に対して配当金請求権なる実体法上の権利があるとしてその履行を求めるものであるところ、凡そ競売裁判所が競売手続の過程においてなす行為(配当金交付等の事務を含めて)は、すべて訴訟手続の一環としてなされるものであつて、権利義務の主体としてなされるものではない。されば本件において、競売裁判所が配当金を交付すべきであるのに正当の理由なくしてこれを交付しないからとて、その交付請求を目的としながら、競売手続上の不服申立の方法によらず、独立の判決手続により、国に対し直接配当金自体の支払を求めるがごときは、競売手続の根本構造に矛盾し許されるべきではないから、原告の請求は不適法として却下されるべきであると述べた。

理由

一、原告主張の本件抵当権実行のための不動産競売事件(福岡地方裁判所小倉支部昭和三十二年(ケ)第三四号)は、同年十二月十六日配当手続を了して完結したことは、原告の主張するところであつて原告はその後にいたり、競売裁判所が右事件の配当金を原告に交付しないことを理由として、実体上の権利に基ずき競売手続外において直接被告に対し、競売配当金の交付を訴求するものであることは、原告の供述自体によつて明白である。

二、競売法による不動産競売事件における配当表の実施は、競売手続の一環として行われるものであるところ、競売裁判所のなすその手続の実施方法に対する不服は、執行方法に関する異議申立の方法によるべく、すでに競売手続が完結した以上、配当表実施の方法に関する異議申立の機会は、全く失われたものである。

されば原告が本件競売手続の完結前において、競売裁判所が正当の事由なく配当金を交付しないとなすならば、これに対し競売手続上の不服申立の方法によるべきであるのに敢えてこれをなさず、競売手続の完結後にいたり、同手続外における別個の判決手続により、競売配当金交付請求権なる実体上の権利があるとして直接被告に対し、競売配当金の支払を求めることは、法律上許されないというべきである。

三、よつて原告の本訴請求は、その本案の当否について判断するまでもなく、不適法としてこれを却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中倉貞重)

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